「お疲れさまっす」 まだ朝の早い時間にも拘らず、参謀部内はいつもと変わらず慌しい。 各国間の関係が刻々と悪化してきている現在、火の国からの依頼のみならず、隣国からの依頼も増えてきている。 そのため、もともと人材不足な参謀部では朝昼夜関係なく働き続けている。 ネコの手も借りたい状態とはこういうものなのだろう。借りたいのは山々だが、扱っているものが物なだけにどうしても人を選ばざるを得ない。 その生贄に選ばれてしまったシカマルはほとんと閉まっている目を先輩に向け軽く会釈する。 手には丸められた毛布。 三日三晩家に押しかけられ、顔を会わせる度に先輩達に頼み込まれ、これ以上粘ってもムダだと察知し参謀部入りをしぶしぶ承知した。 そしてその条件として睡眠時間を確保した。 どんなに忙しくても限界に来たら寝る。 寝なきゃ頭が回らないタチだったので二つ返事で承諾されたのだが。 だがここまで忙しくてはさすがに家に帰るのも面倒なのでもっぱら人のこない資料室で寝起きしていた。 それも一週間続いている。 「おー、お疲れ。さっき火影様から書類預かったから。あ、それね。お昼までによろしくだってよ」 うつろな目をしながらも、書類に書き込む手は休むことなく動き続けている。 まだ若干夢と現実の狭間にいたシカマルを否応なく目を覚まさせた。 火影から押し付けられた書類と下からの報告書が山積みになった机の上。 あまりの仕事の多さにもともとないやる気がさらに下降してゆく。 昨日全部片付けたはずなんだけどなー。遠のく意識の中で昨日必死に片付けた書類の束が思い出された。 「おーい、シカマル!客」 来客を告げる声のするほうを振り向くとかつての上司の姿。 「?なんだよ。アンタがこんなところに来るなんで珍しいじゃねえか」 「探したんだがなぁ」 「ああ、資料室で寝てたから・・・」 殆ど人が入らないその資料室。昔から整理されていないので誰も近寄らない。 それをいいことにシカマルはほぼ自室のように使用していた。 使っていくうちに隠れた部屋を見つけ、そこを寝室に使っていた。見つかるわけがない。 アスマはタバコを一本取り出し火をつけた。 「おい、ちょっと面かせや」 いつもの様子とは違うアスマに眉根を寄せる。 「・・・。昼までに終わらせないといけない書類があるんだけど」 「やってからでいい」 ここまで強引なのは珍しい。 なにかまずったか、とふと考える。いくつか考えられるがそのうちのどれかなのか、もしくは全て、 それとも考えすぎなのか・・・。 シカマルは一息つくと 「すみませんがちょっと席外します。いつものとこにいるんで」 意識を保っている先輩に一声かけた後に自分の机の上から綱手に頼まれたらしい書類の束のみを持って再びアスマを向く。 「資料室でいいだろ?」 「ああ」 AS IT IS 「申し訳ございません。この資料はここで管理していないんです」 「えーーーっ?!!何とかならないのかってばよ」 すがりつく様に司書を見つめる。若い上忍の情けない表情にふっと笑うと、 「本部の資料保管部にあると思いますけど」 司書のセリフに顔を引きつらせる。 「・・・ま、まじ?」 「ええ、ここにないものは大抵あちらにありますから」 「・・・・はぁ・・・」 あそこには二度と行くもんか、と心に固く誓っていたのに。 前に行ったのは火影からシカマルを連れてくるようにと言われたからだった。 だが、「ばっちゃんが呼んでる」と告げてもシカマルが 「欲しい資料が見つからないから行かない」 と言い張ったため、ナルトが仕方なく付き合ったのだ。 ナルトは何の役にも立たなかったのだが、部屋から出てきたときには高かった太陽がすでに沈んでいた。 「あ・・・、そっかそっか。シカマルに手伝ってもらえばいいんじゃんかー。俺って天才!」 ありがとうってばよっ、と司書に告げるとバタバタと走っていってしまったナルトに司書の「静かに」という声は届かなかった。 「シカマル〜?シカ?シカちゃーん?」 シーンとした広い部屋に木霊する自分の声に返答が無いことをしり、深くため息をついた。 集中しすぎて気がついていない、というわけでもないらしく、部屋には人の気配は無い。 大抵外に出る任務の無い時はここに篭って、片っ端から見境無く資料を漁っているシカマル。 確か本日の里外任務は無かったはずだ、と当たりをつけて直接資料室に来たというのにその感は外れた。 「俺一人で・・・、どうしろってんだってばーーっ!!」 ちくしょーっ、と頭を抱え天井を仰ぐ。 「あ、ナルトぉ?どうしたの、そんなところで」 いつも閉まっている資料室、基、資料保管部のドアの向こうから叫び声が聞えるのを聞き、通りかかったいのがドアから顔を出す。 「いのじゃん。久しぶりだってば」 「そうねー、確かに。で?何してるの?ナルトが資料室にいるなんて珍しすぎー!」 いっつも調べ物は人まかせなくせに、とナルトをからかう。 「俺だってこんなとこきたくねえよ・・・。でもさ、次の任務でどうしても調べなきゃならないことあったしー・・・」 「ふーん。で、資料見つかった?」 「う・・・・っエ・・・エヘ?」 資料を探っていた手を止め、いののほうを向いて苦笑いする。 上忍になり、その腕も里を代表するまでになったというのに。こういうところはいつまでたっても変わらない。 「めったにこないアンタに、こっから目的の物を探せるわけないでしょ。」 壁一面の棚に巻物や綴じられた本が納まっている。 それも整理されているのではなくただ押し込められているだけで、目的のものを探すには片っ端から手にとって見なくてはならない。 そのため資料室に人が訪れることは殆どなく、より整理・管理されている里の図書館を利用する。 一般に開放されている書籍から里長の許可が無ければ閲覧できないものまで揃っている本部近くにある図書館。 殆どの場合そちらに行ったら事足りるのだが、たまに取り扱っていないものがあったりする。 「手伝ってあげたいのは山々だけど、私今からやることあるし。」 「いのぉ・・・」 「泣いたって無駄よ!それに、私が手伝うよりシカマル待ってたほうが早いわよ」 もう読んじゃってる資料だったら何処にあるのか知ってるし、と呟く。 どうやら今までになんどか幼馴染の世話になっているらしい。 諜報活動が主な任務であるいのには情報という武器が何より重要なのだ。 「そう、そのシカマルは何処にいるんだってば?!!」 むしろ最初に探していたのは資料よりもそちらだったのだ。いのは考え込むように上目使いで口元に人差し指をあてた。 「んー、暫くかかるわよ?もしかしたら今日は無理かもしれないし」 「何で?!!」 任務で外には出て行っていないということはすでにイルカに確認済みなのだ。 里の中にいるならば、捕まらないわけが無い。 必死な様子のナルトにいのはにやっと笑う。 「アスマ先生に連れて行かれたから」 楽しそうな声色でそう告げると、頑張ってね、と資料室をあとにした。 そのいのの後姿を呆然と見詰めていたナルトはがくっと項垂れた。 「シカ〜・・・、早く戻って来てくれってばぁ」 床に大の字に寝転び、天井に向かって叫ぶ。 既に外は真っ暗で、帰宅する忍たちの声が遠くほうに聞える。 明かりがついていない室内に入る光は月明かりのみ。 今日はむりかもしれない、といのに言われたことが蘇る。 ナルトだって、何もしなかったわけはないのだ。 役職上、一番資料をひっくり返している参謀部の面々や、サクラにだって聞いてみた。 だがみんな、「そんなものあったか?」というか「あった気がするが何処にあったのか覚えてない」などと言うだけだった。 自分で探してもみたが手当たりしだいで見つかるわけも無く。 はあ、と深いため息をついたとき、はるか頭上にある入り口のドアが開いた。 「なにやってんの?お前」 廊下の明かりで出来た影に飲み込まれ、かばっと起き上がった。 「シッシカマル?!なんでこんな時間に?」 来てくれたんだ、と思った。だが同時に何故こんな時間に彼がこのようなところへ訪れるのか不思議だった。 任務に時間は関係ないとは言え、休暇中は別だ。一人で資料室を漁っていたら、参謀部の一人が教えてくれた。 軍師は早退した。と。 時刻は既に十時を回っていた。 「いのが家に来て、ナルトが待ってるって・・・」 いのが言ってくれたんだ。そっか、と嬉しそうに言うと、ずっと下を向き横を向いたままのシカマルにナルトは首をかしげる。 「シカ?どうかしたってば?」 「なんもねえよ」 「いや、なんもねえって・・・」 そっぽを向いてしまったシカマルに近づいて顔を覗き込んだ。 完全しゃがみ込んでしまっているので、下から見上げる格好になっている。 目線は尚も逸らしたままだが、僅かに見えている頬が赤く腫れているのをみて、ナルトは顔をしかめた。 「・・・、シカマル?」 「なんもねえって。んで?お前こそ何の用だよ」 強引に話をそらすとナルトと正面から向き合う。 すこし目が赤い気がするのは気のせいだろうか。 いつもの彼ならばこのような不自然な話の逸らし方はしない。 いま、どれだけ問い詰めてもムダだろう。そう判断すると 「んー、ほら、次の任務のことで欲しい資料あるんだけどよぉ。見つからないんだってば」 「何の資料だ?」 ナルトが床に散らかしていた資料を拾い集め、元の位置に戻す。 一つ一つ違う場所に置いて行っていると言うことは、一応何か、一般人には解らないが、ジャンル分けがされているらしい。 「禁術の解除法の載ってるやつ」 禁術の書は火影邸に厳重に保管されているのだが、解除法に関しては一応火影の許可を得て閲覧できるようになっている。但し、見つけ出せれば、の話だが。 「あ〜、アレか。あれ今俺んち」 さらっと放たれた言葉にナルトは目をぱちくりさせた。 「・・・、アレってば一応持出厳禁のはずなんだけど」 「いいの。俺だから」 「あ、ソ」 殆ど人が出入りしない、資料保管部の主と化しているのは前から知っていたが、私物化するとは。 まあ、そこら辺のことも綱手は承知済みなのだろう。 軍師としてやっていくためには膨大な知識が必要なのだ。 ただし、シカマルはその義務感でやっているわけではなく単なる好奇心の賜物なので、まったく関係のない本でも、本であればなんでも読むのだが。 あからさまに話を逸らされたものの、元々白い肌が赤くはれている様子を見て見ぬフリはできずにチラっと様子を伺うとふいと顔を逸らされた。 「どうする?本。必要なら取りに帰るけど・・・」 「ええっと、できれば今日中に欲しいんだけど。・・・、よかったら取りに行くってばよ?」 「・・・ああ。わりいな」 一瞬考え込んだのは、ついてきて欲しくなかったからなのか。 遠慮気味に提案したナルトにシカマルは苦笑いを浮かべた。 今日中に、と言う条件がシカマルの拒否権を奪ったのだろう。 シカマルがとりに帰るより、ナルトがとりに行ったほうが効率がいいということは明白だった。 月明かりの元を散歩がてらにゆっくりと歩いてゆくシカマルの後ろをついてゆく。 木々の間からのぞく星を眺めながら、何やら考えているシカマルの背中を見て、ナルトは何があったのかを考える。 アスマ先生となんかあったんだろうなぁ・・・ ナルトとシカマルとの付き合いはアカデミーに入ってから彼是十年ぐらいにもなるが、アスマとシカマルはそれ以上に長い、らしい。 アスマに聞いた訳でも、シカマル本人に聞いたわけでもない。 アスマとはそういう話はしないし、シカマルは自分の昔のことをまったくと言っていいほど話さない。 アカデミー以前からアスマとシカマルの交流があった、ということを聞いたのは彼の幼馴染のいのからだ。 幼い頃からの付き合い、元担当上忍、そして、同居人。 色色な形でかかわりを持って来た彼らの間には独特の雰囲気がある。 恋人、というほどには甘くは無いけれど、確実にお互いを必要としていることがわかる。 アスマにも、シカマルにも、お互いが必要。 わかってる。わかってるけど。 一度認識してしまった気持ちを偽ることは出来なくて。 もしかすると、シカマルは気がついているのかもしれない。 自分よりも聡く、自分よりも多くの人とかかわりを持って来た彼だから。 そんなことを思いながら、ズルズルと時間が過ぎて行ってしまった。 そして、今も、ズルズルと何も発することなく、先ほどよりも頬の腫れが引いた彼の後ろを歩んでいる。 彼の実家とは反対方向に。彼の白い肌を赤く晴らした男の家に向かって。 「なあ・・・、シカマル。どうしたんだってば?そのホッペタ」 「何でも」 一番初めに交わした会話と同じ返答。 動揺も見せず、何事もなかったかのようにゆったりと歩んでいくシカマルに顔を歪めた。 前を歩いていたシカマルの肩を掴んだ。 「何でもって。じゃあ何でほっぺた腫れてるんだってば?!!」 目線を合わせた黒曜石の眼は一瞬見開かれたが、直ぐに下に伏せられた。 「俺が悪かったから。だからいいんだ」 掴んでいたナルトの手を振り払って、再び歩き出したシカマルの背に向かってナルトが叫ぶ。 「いいって何?!殴られていいの?!!」 「そういうことじゃない。俺が悪かったんだ。ナルトには関係ない」 「っ関係ないけどっ・・・。ケドさぁ・・・。俺ってば、シカマルの事が・・・っ!!」 「言うなっ!!!」 「シカぁ・・・」 「頼むから・・・俺は・・・・っ!」 ザアっというチャクラの流れと共に、先にいた存在が消えた。 「っシカマルー!」 限界だった。このままでいることが出来なかった。苦しかったんだ。 追いかけることも出来ずに、地面を眺めることしか出来ない今の自分が悔しかった。 まだ届かない。 手の中には、握り締めた砂の塊が残っただけ。 手からサラサラと砂が毀れ、風に吹かれて飛んでいった。 ▽2004年9月9日 さーみしー 悲恋?悲恋ですか?? シカマルはアスマさんに殴られてます。 何で殴られたかというのはー、ご想像にお任せ。 タブン、何らかの形でかくかと思いますけれど。 しかし、ナルトは救われませんね。いつまでたっても 激動の一日。 何がこうなってこういう流れに? ナルトはただ単に資料を探していただけなのに。 告白するには勢いが必要なんです。 自分で読んでいて、笑ってしまうような間違いがあったので修正しました。 それに伴って、文章内もちょこちょこっと修正。 |
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