駆引















最近は忙しかった。

普段、下忍の育成や本来の上忍としての任務を掛け持っているカカシでもここ最近の忙しさに参り始めていた。

ここらで一息つきたいものだ。

そう思うのは彼だけではなく。もともと騒ぐのが好きな者達がカカシの知り合いには多い。自分が心の潤いを求め始めた頃には、もう既に全ての計画、準備がなされ、あとは開催されるのを待つのみという状態になっているのだ。

今回もその例に漏れず。

2,3日の短期任務だったにも拘らず、里に帰ってきたその足で向かった上忍待機所にて今日の午後から開催される飲み会のことを聞かされた。

参加するのは特上以上。上忍達が暴れ始めても自分を守れる程度の実力を身に付けているもの、という意味も多分に含まれている。現に特上に上がり立てで初めて飲み会に参加するものなどは無傷で帰れるものは殆どいない。

特にここ最近は、主催しているのがアンコたちであるので、更にたちが悪い。主催者側に止めるものが存在しないので、はっきりいって無法地帯と化している。その場で自分のペースを保ち、場の混乱に巻き込まれずに、いかに疲れずに帰宅するか。長年前線で任務をこなしてきているものたちはここの点でも群を抜く。

そんな集まりに中に、ここ最近顔を出すようになったのがカカシの同僚であるアスマの元生徒であり、今現在火影のサポートまで努めている奈良シカマル。何時も誰かしらに引っ張ってこられるらしく、酔っ払いどもの醜態に眉を潜めながら会に参加している。

その彼をつれて来い、と主催者アンコに指名され、いまカカシはだらだらと里の中心街を歩いている。どうやら、この年齢に合わぬ落ち着いた雰囲気を持つ彼をからかう事が楽しいらしい。

里の外の動乱と遮断された内。いつもどおりの活気の溢れた店を横目に、きっと彼がいるだろう場所へと向かっていく。段々と木々の緑が多くなっていく。

古い、よく言えば味のあるアパートメント。その前でカカシは立ち止まった。もう、十年来の付き合いになる腐れ縁の男の家は三階建ての建物の最上階にある。一人で暮らすのに何故そんなに広い部屋が必要なのか、と不思議に思うぐらいの広さがある。実際、その髭面の男が使っていたのは三部屋あるうちの一部屋のみである。他の部屋は使われることなく埃を被っていたのだが、ここ最近、彼の元生徒が実家に納まりきらなくなった本を持ち込むようになったのでちょっとした図書館が出来上がっている。部屋も本来の役割を取り戻し、さぞや満足であろう。自分が使ってやる、といくらいっても頑なに拒んできた男が元生徒の行いはあっさりと許した。それを考えると、その部屋らはもともと彼のために空けてあったのであろう。そう考えると、いい年をした男が可愛らしく見えてくるのだから不思議だ。

そんなことを考えながら、カカシはアパートメントの階段を登る。古いが粗末なわけではない。管理もきちんと行き届いた中々の建物なのだが、如何せん本部から遠いのが玉に瑕である。

二階から三階へ上がる途中で、上方から扉の開く音が聞えた。三階には同僚の部屋しかない。その同僚も自分とはまだ別任務で里外へ出ている。黒い布で覆われた口端を上げた。

「や、久しぶり」

「!カカシ上忍?お疲れ様です、帰ってきてたんですね?」

「お蔭様でね。君は今から仕事?」

カカシはシカマルの手に持たれている紙の束に視線を落す。

「いえ。ホントは休み中なんですけどね」

部下が尋ねてきて書類を押し付けていったのだ、と。急ぎの書類を届けに行くということで忍装束には着替えず、普段着のまま出てきたらしい。だが、シカマルのことなので仕事着で出て行ってしまえば上司である綱手に捕まることを考えた上のことなのであろう。

人手不足が慢性化している現状で、内勤組がきちんと休みをとれることはまず無い。何かあれば問答無用で仕事が回される。すこしでもその可能性を低くしたい、シカマルなりの悪あがきらしい。

「あ、何か用だったんですか?熊はまだ帰ってきてませんけど」

「いや、今日は君に用事なんだよね」

「はあ、珍しいっすね」

改めてそう言われ、ふと、そういえばそうだ、とカカシは思う。同僚宅を訪ねること自体は珍しいことではない。だが、カカシの用事といえば家主のアスマをからかう事であったり、任務の伝達であったり、夕飯に押しかけたりと、アスマが目的である。もちろんシカマルが同席していることも割と多いのだが、今まで一度も彼に用事でこの家を訪れたことは無かった。そもそも用がないのだから当たり前で、それにここは同僚宅で彼の家ではない。

沈黙、だが不快ではない不思議な空間。

急いでいるというわけではないらしく、ゆっくりと舗装された道を歩いていくシカマルの隣を歩調をあわせて歩く。シカマルの周りには常に周りの時間に逆らった流れが出来ている。いつの間にやらその雰囲気に馴染んでいる自分自身にカカシは気付く。その空気に惹かれて、皆集まってくるのだろう。

「そういえば、君とはゆっくり話したこと無かったね」

「そうですね。まあ、大概誰かいますからね、煩いのが」

隣で苦笑するシカマルを上から見下ろす。

この子と同期の自分の元部下はもうすっかり成長し見下ろすことなど出来ない。他の班の旧家の男の子達もそれなりに成長し、キバなどはかなりの長身である。その中でもシカマルは極端に小柄だ。彼の父は一般的な身長だが、元々奈良家は小柄である。奈良家特有の吸い込まれるような黒曜石の輝きを発する瞳と墨色の髪。

里でもっとも古いという血を、色濃く受け継いでいる彼。下忍になった時などは目立たなかったその面立ちも、成長するにしたがって、内から醸し出される知性と元々整った顔立ちが相成って実に色気がある。

これも、奈良家の裏の家業の血のためか。

火の国のみならず、各国の色街に店を構える老舗「珠鳴屋」。主に大名などを相手にし、情報を聞き出す。寝間という場は実に各国の重役達の口を軽くするのだ。その店が実は奈良一族のものであることを知っているものはごく僅か。カカシも国外任務でシカマルと同行したときに偶々知った。親しげに花街の女と話すシカマル。普段の彼から好き好んでこのような場所に入るようなイメージを持っていなかったカカシは随分と驚いた。その女達も選りすぐりのくの一だが、現在その彼女達を統括しているのはいまカカシの隣をゆったりと歩いている青年だ。末恐ろしいとはこの事か。

自分の元部下はこのことを知っているのだろうか・・・。

おそらく知らないであろうことは想像に難くない。明るい金色の髪を持った、四代目の落とし種。彼も複雑な生い立ちを持っているが、この黒い髪の青年の生業を理解することは出来ないであろう。

真っ直ぐな目を持った部下の視界には映らない。また、それをシカマルも望んでいる。

「なんだか、寂しいね・・・」

「・・・?何か言いました?」

「ん?なんでもないよ」

怪訝そうに見上げてきたシカマルに微笑む。いつの間にやら声に出ていたらしい。この聡い青年はカカシが誤魔化していることなど一目見てわかるだろうに、深くは追求しなかった。そういうところが彼らしい。

そういえば、ここに来た目的を全く告げずに歩いていることにカカシは気がつく。

「今日ねえ、上忍達で飲み会なんだけど。」

「そうですか」

一言そう口にするだけ。自分を巻き込むな、とでも言うかのように少し歩調が若干早くなる。

「・・・、いや、君もいくんだよ?」

そうでなければ、カカシがここへ来た意味は無い。若干動きが機敏になったシカマルの歩調に大股でついてゆく。

「何故ですか?俺上忍じゃないし・・・」

面倒くさい、と目線で訴える。

今までに上忍らの飲み会には参加したことが無いわけではないが、そのときはいずれも元担当上忍のアスマがいたのだ。ついていっていた、というよりは連れて行かれていた。アスマが居ない現状で、シカマルには自分が飲み会に参加する理由が何処にも無いのだ。実家に帰ればそれなりの夕飯も出てくる。

だが参加しなければしないで、後々主催者達―おそらく今回もアンコあたりだろう―から愚痴を頂くのだ。それはそれでありがたくない。
突然脚の動きを止めたシカマルを一歩ほど追い越し、カカシは振り返る。

「・・・・」

首を項垂れ、書類を持っていないほうの手を腰にあてた姿勢で考え込む。その様子を何も言わずにカカシがみていると、ため息が聞えた。

「わかりました。とりあえず、この書類を火影様に渡してくるんで。それからでいいっすか?」

少し見上げて、困ったように微笑む。

無意識でやっているんだろう行動に、カカシはすこし苦笑する。奈良家の教育の賜物なのだろうか。しかし、それに嵌っている自分がいる。

「・・・、ねぇ」

「なんすか?」

「キスしていい?」

「・・・、どこからそういう流れになったんですか・・・」

口を引きつらせ、カカシから少しでも遠ざかろうと後ろに足を引いた。

「んー、さっき?だって、君が悪いんだよ?そんな顔で見上げられたらこっちだってその気になっちゃうでしょ」

身を遠ざけようとするシカマルの背にすばやく手を回し、これ以上の後退を妨げる。カカシの空いた右手がシカマルの唇をなぞる。

完全に動きを封じられ、諦めた表情を浮かべていたシカマルの目の輝きが変った。自らの唇をなぞる男の手に自らの手を添える。それを見てカカシはにっと笑った。

唇が重なる。

「・・・んっ・・・はァ・・・っ」

バランスを崩しかけるシカマルを背中に回した腕で支える。不足した酸素を取り込もうとしている口にその暇を与えず、角度を変え、何度も口付けた。

「ご馳走様」

呼吸を整えているシカマルの口の端から伝う雫を指でぬぐう。いつもの飄々とした笑顔を浮かべているカカシを潤んだままの目で睨みあげる。

「・・・、舌入れましたね・・・」

「気にしてないくせにー」

「ハァ・・・、もういい・・っ?!?」

「あーーーっ!!!カカシ先生――っ?!!!何やってるんだってばよ!!!」

目を見開いてわなわなとこちらを指差している。細道の出口で太陽の光に照らされ、金色の髪がキラキラと輝いていた。任務帰りらしく、支給のベストは土で汚れている。

「やあ、久しぶりだねナルト」

「あ、ナルト」

舗装された道を通らずに、自然に出来た細道を真っ直ぐに抜けてきたが、その出口まではまだかなり遠い。木々も自由気ままに枝を伸ばしているために見通しは更に悪い。

よく見つけたものだ、とシカマルとカカシは感心した。

一瞬のうちに目の前にナルトの姿が現れる。

「何でそんなに落ち着いてるんだってば?!!シカマルに何してんだ!!手え離せってばよーーっ!!!」

未だにシカマルの口元と背中に添えられていたカカシの手をなぎ払う。

「あー、ハイハイ。ナルトは少し落ち着きなさいよ」

シカマルとカカシの間に入って怒鳴る。

「二人が落ち着きすぎなんだってばっ!シカマル?!大丈夫だってばよ?!!」

「いや、別に何もねえし」

「何もないって・・・。だって、今カカシ先生にキ・・・・、キ・・・っ」

「キス?」

「されてたってばよ?!!」

「見てたんだ?」

カカシが背後から答えた。明らかに気がついていたくせによく抜け抜けとそういうことを言う、とシカマルは呆れる。

「『見てたんだ?』じゃないってばよーっ!!シカマルぅ?!!」

「うっせえなあ。だから何なんだよ・・・」

一人騒いでいるナルトに面倒くさそうに答える。

「!!・・・・、もしかして二人は付き合って・・・」

「「いいや?」」

二人を見比べていたナルトに、二人揃って即答する。

「じゃあなんなんだってばー。付き合ってもないのにキスすんのか?!」

「まだ若いね・・・」

「付き合ってなくったってキスぐらい・・・しねえ?」

遠い目をするカカシと、真剣に考え込むシカマル。どうやら階級が上がるにつれて一般常識から自らの常識がずれてくるらしい。

「しーなーいっ!!じゃ、じゃあ・・・、シカマルは俺がキスしていいって言ったら・・・」

自分で言って恥ずかしくなったのか、赤い顔を下に向けつつも、上目使いでシカマルの様子を伺う。

「してえの?」

「!!」

「・・・、すれば?」

不思議そうに首を傾げる。周りの人間たちが自分を構いたがる理由がよくわからないらしい。シカマルにしてみれば、キスもスキンシップの一つに過ぎなくなってきている。ナルトがなぜそんなに過剰反応をするのかがよくわからない。

「ほっほんとだってば?!!・・・っやっぱ嫌とか無しだってばよ?!!」

「ああ。ていうかさあ、お前ら変態?七班って変態?元担当上忍がこんなんだから」

「あ、ひどい」

ちっともヒドイと思っていない顔、今までのシカマルとナルトの会話を聞いて笑い転げていたために目じりには涙が溜まっている。

「ホントのことじゃないですか。カカシさん節操ないし」

「カカシ先生!シカマルに何したんだってばよぉ??!!!」

「んー、子供にいえないようなこと?」

明らかに元生徒の反応を見て楽しんでいるカカシにシカマルが呆れる。

「いや、俺に聞かないでくださいよ・・・」

「っっ!!カカシ先生のバカーーーっ!!」

「あ、ナルトー」

泣きそうな顔で走り出そうとしていたナルトを気合の抜けた声でシカマルが呼びとめる。それに反応して勢いよく振り返る。

「なんだってっ・・・・んーーーっ・・・っ」

「・・っはあ・・・。・・・、んじゃ。ナルト、その報告書は自力で仕上げろよー」

自分より高い位置にある唇をあっさりと離し、にっと笑って姿を消した。後には石とかしたナルトと、ヤレヤレと頭をかくカカシ。

「・・・っ!!!!!なっなっ・・・・っアイツ・・・、上手過ぎ・・・・」

これ以上ないだろうというぐらい顔を真っ赤に染め上げ、地面にへたり込む。

「そりゃーね。ま、良かったじゃない?」

「・・・、なんか情けないってば・・・」

ほてった顔は中々元に戻ってくれないらしい。

「ま、立てるようになったら自力で帰りなさいね」

「え?!放置?!!って、先生!」

ゆったりと歩き出したカカシの背に向かって必死に訴える。こんなところで腰を抜かしていては忍としても情けない。

「先生、これからシカマル追いかけないといけないの。ナルトの相手してる暇ないんだよねー」

「俺も行くってばよーっ」

「せめて特上に上がってからにしなさいね。あと一年頑張りなさい」

じゃあね、と音をたてずに姿を消した。



「バカーーーっ!!」




























「君もまた、赤い顔して。」

「ほっといて下さい・・・っ」




















▽2004年6月16日
やっと終わった。
シリアスなのか、ギャグなのか、よくわからない。
最初の方はシリアスだったんだけどね・・・(汗)
他のひとにキスされてもなんとも思ってないくせに、自分からしたりとかするのがとっても恥ずかしいシカが可愛い。
一人で隠れて照れてるのが可愛い。
カカシはそんな彼らをからかうのです。
いや、でもシアワセを願ってるんだよ?ほんとに。
でも、そのわりにはシカマルに手を出しすぎです。
アスマとかにばれてるんだよ、きっと。








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