「ねー、今夜、どう?」

銀髪の、洒落た高級スーツを着こなした男が話しかける。


ふざけないで、私はそんなに安くないわ。

とでも答えが返って来ればいいのだろうが、生憎ここは六本木でも、赤坂でもなく。
東京郊外の学校、しかも職員室前だったりする。

しかも、この話しかけた男は教師。畑カカシ。一年の国語の担当だ。
素晴らしい日本の文化と接しているのだから、もう少しステキなくどき文句はないものだろうか。
そのカカシに職員室前の物陰に連れ込まれ、
周りから全く見えなくなっている場所に一人の人間が立っている。

吸い込まれそうな真っ黒な艶やかな黒髪を襟足で纏め、切れ長の目にプラスチックフレームの眼鏡。
その眼鏡の奥の黒真珠のような目は、明らかに不快を表しているが。

それもその筈。
この人物の着ている制服は真っ黒の、いわゆる学ラン、と呼ばれるもので、勿論男子しか着ない。
男子にしては細く小柄であろうが、女子と勘違いされるほど、女顔でもない。
しかし、勘違いではないということは彼、奈良シカマルは100も承知だ。
なぜならば、この畑カカシとは旧知の仲であるのだから。

「入学式早々、よこしたセリフがそれか。阿呆」
呆れ顔で見上げると、其処には悪戯顔の教師の顔が間近に迫る。
「よく似合ってるよ、学ラン。ストイックでそそるよね〜」
そういうと、シカマルの首筋に顔を埋める。
「やーめーろー」
中学でもガクランだっただろうが、というシカマルの突込みを無視して、チュ、と音をたてると、カカシは顔を上げニコと笑う。
「今夜はお祝いだね。御飯用意して待ってるから、夜になったらアスマとおいで」
またね、とヒラヒラと手を振って去っていくカカシに拍子抜けしつつも背中に返事を返した。







ある日突然見知らぬ世界へ足へ突っ込むことも、時にはあるかもしれないよね(仮題)







木の葉学園の全学部はこの日入学式を迎えていた。

サクラが咲き乱れる街道を走っている一人の学生。
真新しい学生服から見るにどうやら新入生らしいがあと30分で始まる其処。
金色の髪を段々と暖かくなってきた風にたなびかせ只管に走る。

「だあっなんで起こしてくれなかったんだってばよ〜っ遅刻するってばっ!」

その横を通り過ぎようとしている一台のパジェロ。
運転しているのはやたらとガタイのいい髭面の男だ。
ウィンドウは空けられていて、心地よい風が車内を駆け抜ける。

機嫌がいいのか鼻歌交じりで運転している男、猿飛アスマの隣でぼーっと外を眺めている学生。
詰襟は脱がれ、後部座席に放り込まれている。
パリっとノリの利いたワイシャツから推測するにおそらく新入生であろうが初々しさの欠片もない。
眠さを押し殺すこともなく、大口を空けて欠伸をする。

「おい、お前なあ。新入生なら新入生らしく、初々しさってものを出してみろよなぁ」

「この上なくめんどくせえことに巻き込まれて俺は疲れてるんだ。
そもそも、そんなものこの俺にあると思ってるわけ、あんたは」

思い出すのも嫌なのか、シカマルは顔を顰めた。

「思ってねえよ。しっかし、やっと高校生か。のんびりしてないで飛び級しろ」

「そんなめんどくせえことしねえ。ん?ありゃー・・・」

直ぐ横を通り過ぎて行った金色の頭に、彼は見覚えがあった。


「アスマ、ちょっと止めて」

「ん」

25メートルほど通り過ぎたところで車は停止し、窓から身を乗り出す。

「おいナルトぉ。何やってんだお前ー」

「あー、シカマルじゃん!!何楽してるんだってばよっ!!」

「うっせえなあ、なんだっていいじゃねえか。それよりお前、この坂上ってたら確実に入学式に遅刻だぞ」

更に傾斜を増していく坂の先を二人で見つめる。大分登ってはきているがそれでもまた中ほど。
あと15分ぐらいはかかるであろう。
ナルトの引きつった顔に、シカマルは思わず噴出す。

「なんだってばよ・・・」

「しゃあねえなあ。ほら、乗れよ。送ってやっからよお」

「マジ?!マジで?!!」

「行き先同じなんだから。ほら、早く乗れよ」

「ラッキー!おっじゃまっしまーす」

ドアを開け、後部座席に賑やかに乗り込む。

「ハイハイ」

朝から元気な知人に呆れ顔を見せるシカマルにアスマはクックっと笑った。
ナルトが乗り込んだのを確認し、アスマは車を発進させた。
先ほどまでとは比べほどにならないほどの楽さにナルトが歓喜の声を上げる。
「うは〜、ラクチンだってばよー」

「そらよかったな」

既に意識が外の景色のほうへと移っているシカマルにかわって、アスマがナルトと会話する。
「おうっアスマ先生ありがとね」

「いいって。どうせ目的地は同じなんだし。それに、俺ゃもう先生じゃねえぞー」

アスマはついこの3月、ナルト達が中等部を卒業するまで中等部で数学の教師をしていた。
つい最近のことであるし、しかも何だかんだと頻繁にあっていたのでナルトには実感がない。

「でも、先生だってばよ?そういや、先生今何してんの?」

「それはー・・・」

言い辛い、とでも言うようにアスマの目線が空をさまよう。

「?」

それを見たシカマルが一言。

「無職、だよなー?」

「え?アスマ先生プーなの?!」

「ま、まあな・・・」

頬を引きつらせたアスマをシカマルは喉で笑う。
笑うシカマルとアスマの目線が交錯した瞬間―――・・・

「どわっいって――っ!!」

急ハンドルの反動でウィンドウの縁で額をぶつけたシカマルの姿にアスマはにやりと笑った。




無事――頭にタンコブが出来たものもいるが――高等部の門前に下車した二人はクラスを確認し階段を登る。
周りには中等部からのお馴染みの者と外部の者とがいて、持ち上がり組みは矢張り騒がしい。

「シカマル、クラス同じだってばね。嬉しいけど、何か新鮮味がなってばよ・・・」

「そうだなあ。ないよな、あんまり」

「今回はキバもサスケもサクラちゃんも、みんな同じだってばね」

小等部からの持ち上がりなので何度となくクラス編成が行われているが、シカマルとナルトは
クラスが同じになることが余りなかった。
下の掲示によるとクラスメンバーは殆どが持ち上がり組となっていることが分かった。
学校に馴染みやすいようにとの、外部生への配慮だろうか。
一年生の間に限り、内部か外部かで分けているらしかった。

「誰かの陰謀を感じずにはいられないクラス割りだな」

「なんか、変な感じだってば」

昔馴染みのメンバー9人がものの見事に集まったクラス。
おそらくとんでもないことが起こるだろうことは、簡単に想像が付く。
別々のクラスであろうが問題が起るのだ。
しかも、全国トップクラスの成績を持つものが問題児グループにいるものだから教師達も強く出れない。
主席のサクラ、バスケの才能を開花させたサスケ。
厳密に言えば、彼らは主犯ではないのだが、なぜか毎回巻き込まれる運命らしい。

「おっはよーだってばよー!」

「おっそーいっ初日から遅刻ギリギリよー」

集まってなにやら雑談をしていたらしい集団が声のした方向へ目線を向けその一人―山中いのが真新しい制服を翻し、叫んだ。
確かに時刻は9時5分前、ギリギリだがまだ担任は来ていないらしかった。
顔なじみの者ばかりが集まったこのクラスでは自然に会話がなされていたが皆中学時代とは違う服装で照れくさそうだ。
男子は相変わらずガクランだが、女子は中学時代とは打って変わり、チェック柄のスカートにブレザー姿となっている。

「俺ってば寝坊しちゃったんだってばよ」

「何してるのよ、高校生活の初日から・・・」

「全くだ、ドベ」

両側からサクラとサスケに突っ込まれナルトは項垂れた。流石に初日からの遅刻は堪えたらしい。
サクラは短めのスカートに水色のブラウス、その上にセーターという姿。細身のサクラにはよく似合っていた。
サスケは上着を脱いでカッターシャツ姿だ。

「けど、珍しいね。ナルトが遅刻だなんて」

学校生活を大いに楽しんでいるナルトは遅刻など滅多にしないのだ。
そのことを、おやつを頬張りながらチョウジが指摘する。そういえば、と他のメンバーもナルトに注目する。

「いやあ、昨日さあ、父ちゃんが帰って来たんだってばよ。
時差ぼけに付き合ってたらいつの間にか明るくなってたってば」

「あー、そういえば、ナルトのお父さんってナルトを置いて、アメリカに単身赴任中?」

「そう。何故か昨日返って来たんだってばよ」

予告もなしに返って来た父・注連縄にナルトは首を捻る。今まで、どんなに言っても帰ってこなかったのだ。
そんな父が昨日の深夜にいきなり部屋へ現れたのだ。流石に子も困惑を隠しきれないらしい。

「ま、いいんじゃねえの?久しぶりに親子団欒を楽しめば」

黙って話を聞いていたシカマルが口を挟む。

「そうよ、何年ぶりよ。たまには良いんじゃないの?」

シカマルに続き、サクラもそう結論付ける。しかし、ナルトの表情は変わらない。

「でもな〜、なんか変なんだってば」

「な・・・っなにが?」

ブラウスのボタンをキッチリと上まで留め、ネクタイをしたヒナタが聞き返す。
「朝家出るときにさあ?変な外人のオッちゃんが玄関の前に立っててさあ?『イッテラッシャイ』って」

「「「・・・・」」」

でもイイヒトそうだったってば、とニコニコしながら言い放ったナルトにサクラたちは言葉を失った。
皆思ったに違いない。
「観点は其処ではない」と。
一人、事情を知っているかのように、シカマルがため息をついた。




入学式も無事に終わり、新入生達はぞろぞろと式場だった体育館から退場してくる。
階段を登るものもいれば、そのまま中庭へと異動する一段もある。
なぜかといえば、登りたくても登れない状況であるから、だ。
一年生の教室は5階にある。つまり、一番上に位置するのだ。

登るには階段を用いなくてはならないのだが一番近い階段がこれまた狭い。
人の流れが一段楽するのを待つか、それとも広い中央階段へ移動するかどちらか一つだ。

初等部からのお馴染みメンバーは式の窮屈さから解放され、中庭で休憩中だ。
一刻も早く教室へ帰りたいメンバーは誰一人とていなかった。暖かい日の光を浴びながら、ベンチに座り込んでいる。

「だー、長かったってばよ・・・」

「だよな〜。無駄な話が多過ぎ。知らねえ人から祝われても嬉しくねえつうのー」

誰しもが思っていることを代弁しつつ、ナルトとキバは窮屈な詰襟を脱ぎ捨てた。

「けど、よかったじゃない。その『無駄』な話が聴けて」

「どういう意味だってばよ・・・」

「よく高校に上がれたわねーって話よー」

「しっつれいなヤツだなあ、いのっ俺達をなめるんじゃねえぞっ!!」

「そうだってばよ!」

「あら、ほんとの事じゃない」

ニタニタとからかう様な表情を浮かべているいの。
はらはらと見守るヒナタに対して他のメンバーはいたって普通に傍観している。
何故ならば、皆いのと同じ意見であるからだ。
皆、学年の中で常に下から数えたほうが早かった二人が進学できたことを不思議に思っている。
一応名門の部類に入るこの学校への進学はそう甘くはない。
学年トップのサクラやサスケ、いのなどは何の問題もなくエスカレーターだ。

「俺達だって何もしてなかった訳じゃないんだからなっ」

「ちゃんとシカマルんちで勉強してたんだってばよっ!」

「シカマルが教えたの?」

「そんな馬鹿な」

「「ていうか、なんでシカマルんち?」」

チョウジといのが聞き返す。

「シカマルには教わってない。あいつに聞いても解らない。ていうかそもそも居なかったし」

キバがキッパリと当然のように言い放つ。そりゃあそうだ、と周りの目線がキバに集まった。
シカマルが「実は」頭がいいということは周知の事実となっている。

「解らないっていうか、やる気がないっていうか」

サクラがそういうと、それに答える様にいのが、

「そうそう。理解力のない奴に教えるの、キライだもんねー」

「うぅ・・・っうるさいってば!!」

「で、誰に教わったの?」

チョウジが聞く。

「「アスマ先生」」

「何故シカマルの家にいるんだ」

理解できない、とでも言うかのように、シノの眉には皺が寄る。
シノの問いに答えるのとの出来る人物はいないらしく、皆首をかしげるだけである。
そして、あることに気が付いたサスケが皆に更に疑問をぶつける。

「で、シカマルは何処にいるんだ?」

「「「あ・・・」」」

全員の声がハモった。




その頃、シカマルはといえば・・・
とある人物に拉致されているわけであるが、そのことをメンバーは知ることが出来るわけもなく。
疑問を抱えたまま、教室に上がることとなる。
既に教室に戻っていたシカマルは彼らに発見される。

「「「「シカマルっ!!」」」」

「んあ?」

ぼけっと外を眺めていたシカマルは、後ろからの声に振り返り、思わず顔を顰めた。

「何だよ・・・」

いの、サクラ、キバ、ナルトの最強メンバー、そして後ろには控えめにシノとヒナタ、チョウジ、更にその後ろに呆れ顔のサスケ。
シカマルは窓の手すりに寄りかかりながらメンバーに向き直った。

「あのさっ」

ナルトが、なんで夏休みにアスマ先生がいたの、っていうか今までどこにいたの、と口を開いた瞬間、教室の扉が開いた。

「はーい、皆席についてー」

その、どこかで聞いた事のある声に教室中の生徒が一瞬考え込み、視線がドアに集まる。

「「「カカシ先生!!」」」

教室中が驚きの声を上げる中、一人シカマルだけが「げっ」と頬を引きつらせる。
やあ、と片手を上げながら教壇に上がり、生徒に席に付くように促すその姿はまさしく、畑カカシその人である。
皆が驚くのも無理はなく、彼は数ヶ月前まで、中等部の教師だったのだ。
この教室にいるわけがないのだ。

「皆久しぶりだね。先生は今年から高等部で先生をすることになりました。というわけで、今年もヨロシクねー」

「えー、またカカシ先生だってばー?」

「高校生になった気がしねえぜ・・・、なあ?」

教壇の直ぐ前に座るナルトとキバに茶々を入れられ、カカシは苦笑する。
彼だって、生徒達の気持ちがわからぬではない。
「ひどいなあ。まあ、今日は入学式だけで詳しいことは明日説明するから。今日はこれで解散ねー。」




さっさと解散したのはカカシ率いる勝手知った十組だけだったらしく、まだ廊下に人は少ない。

バラバラと散っていく生徒たちと同じように、ナルト達お馴染みのメンバーもそれぞれ荷物を背負って教室を後にする。
先ほどカカシによってジャマされた疑問をぶつけるナルト、キバ。
そして、うーとかあー、だとか言いながら明瞭な答えを避けつつダラダラと歩いていくシカマル。
それに続くようにして、既に話題はファッションに移っているサクラといの。
彼女たちに引っ付くようにしてヒナタが。
その後をチョウジ、サスケ、シノと続く。

何かと話題を振りまき続ける彼らの大移動は、如何せん人目を引く。
階段にたどり着くまでに、彼らには興味と好奇の眼が惜しげもなく注がれた。
残念ながら、それを気にするような繊細な神経を持つものは誰もいないのだが。
ぎゃあぎゃあと、階段に声を木霊させながら階下まで降り、正面玄関を潜る。

チラホラと保護者の姿と、部活中の生徒の姿が見える。
うちの部活に是非、との数多の部活の勧誘を掻い潜りながら一同は門へと進む。
真っ青に晴れた、入学式日和。今年は丁度桜も満開でひらひらと散る様子は、空の青との対比が実に見事だ。

そんな景色の中、キャンキャンと耳元で騒ぎ立てる同級生二人に内心ウンザリしながらも、強く拒否できないのは性格からか。
なんにしろ、シカマルはこの同級生達に自分が甘いということは百も承知している。
「今回」のことだって、彼らに関係なければ知らん振りをきめこんでいただろう。
これからのことを頭に思い描き、シカマルは深くため息をついた。

「おーい、お前ら。ちょっとストップ」

「んあ?なんだってば?」

首をかしげながらナルトは校門の丁度手前で停止した。

「なんなのよー。なんかあるわけー?」

急停止した幼馴染の背中にぶつかりながらもいのも聞き返す。

しかしそれに答えることなく、ある人物へと指示を出す。

「シノー、ちょっとココ頼むわ」

「承知した」

シノがこくりと頷くのを確認すると、シカマルは一人校門の外へと出た。

「はぁ?なんなのー?」

いのの声を背中に受けながら、校門の外へ出たシカマルは整備された学校周辺とは不釣合いな雰囲気を醸し出している背広姿の男数人の視線を受けることとなった。

なんか様か?どっかの下端さんよお

シカマル・ナラだな・・・?

その問いにシカマルは答えずに、口の端を上げた。男らもそれを肯定ととり、更に言葉を続ける。

例のディスクを渡して貰おうか

はぁ?ディスクぅ〜??

誰かに襲われる様な理由が両手では数え切れないぐらいもっているシカマルは、「例のディスク」と抽象的にいわれても思い当たる節がありすぎでどれのことをさしているのかが解らない。
素っ頓狂な声を上げるシカマルの態度に、男達も顔を見合わせる。
「もしかしたら、自分達は見当違いなことを言ったのではないか」と。
しかしその中の一人―先ほどから初対面の癖に失礼なヤツだ、とシカマルが密かに思っている彼の真正面で威嚇している男ではない―がサングラスを外し、日本人離れした顔をあらわにすると再びシカマルに問う。

最近開発されたハッキングソフトだ。ナラの息子が持っているという情報を得た。持っているなら大人しく渡してもらおうか

あー、あれか、とシカマルは内心納得する。
確かに襲われる理由十分だが、何も学校にまで来なくても、と密かに溜息する。
幼いころから憧れてやまない「普通の生活」がいつ出来るのだろうか。

確かに持ってるけど、大人しく渡すわけないだろ?ていうか、今持ってないし

貴様・・・

ジリ、と距離を詰める男たちにシカマルも戦闘態勢―といっても我流なのでたいした態勢の変化はないが―をとる。
シノがうまく押さえ込んでいるようだが遠くでぎゃあぎゃあと騒いでいるナルトやキバの声がシカマルの耳に届いたが彼らのことを気にしている場合ではない。
シカマルとしては、得物も何もない状態で大の大人を4人も相手することは少々キツイ。
めんどくせえことに巻き込まれたぜ・・・、と心の中でため息を付く。

男たちが動いた。

掴みかかってきた男にシカマルは掌を突き上げた。
顎に一撃喰らった男はそのまま脳震盪で後ろにひっくり返る。
次の男には思いっきり肘鉄をこめかみに食らわせると、シカマルは倒れこんだ男の上に着地した。

「あ、わりい」

一応日本語で謝ったものの言葉が通じるはずもなく、そもそも意識のない男は答えることはなかった。

学校の校門の前でこれだけ騒がしくしていれば致し方ないが、下校し始めた生徒たちがじーっと学校の敷地内から眺めている。
シカマルは居心地の悪さを感じる。
俺にもやらせろ、と叫んでいるキバとナルトに代わって欲しい、と心底思ったが相手はシカマルに用があるわけだからそういうわけにも行かず。
だがそろそろ人も集まってきたことであるし、引き上げて欲しいなあ。とシカマルは暢気に考えていた。

意識のある―まだ攻撃を喰らっていない二人は顔を見合わせ、コクリと頷いた。

今回は引き上げるが、これで我らは諦めたわけではない

そう不本意そうに言い、伸びている二人を乱暴に起こした。止めてあった車に乗り込むと、急発進してその場を去った。

「一体なんだったのよ・・・」

呆然と、だが、どちらかというと気の毒そうな表情でいのはシカマルに近づく。
気の毒、というのはシカマルではない。
シカマルが大丈夫なのはいのは百も承知だ。
無害そうな顔と雰囲気に騙されてつい手を出してしまった相手がいのは気の毒なのだ。
ポケットに手を突っ込んでいるシカマルにいのはハイ、と放り投げられていたリュックを渡す。

「なんだったの?確かー、ディスクがどうとか・・・?」

英語で交わされていた会話を聞き取ったいのが問う。

「聞いてたのかよ・・・。盗み聞きすると、ろくな事がねえぞ」

リュックを叩いて、シカマルはリュックを背負う。そして顔を挙げ、げっ、と声を上げた。

「一体なんだったのよ?!今のは?!!」

サクラが詰め寄ってきたのを、シカマルは目を逸らした。

「ていうか、俺たちでやったらあいつらぼっこぼこに出来てたってばよ!!なっキバ!」

「その通りだぜ!!俺らが力をあわせれば怖いもの無しだ!何で俺らにさせてくれないんだよ、つまらねえーっ!!」

「そこかよ・・・」

的外れな突っ込みにシカマルは肩を落とす。次は俺らにやらせろ、と騒がしいナルトとキバを押しのけてシノがいう。

「ハッキングソフトを取りに来たのだろう?どれだ」

「俺のじゃねえよ。ちょっとワケありでな・・・」

「ほう。それは大変だな。唯でさえお前は狙われる可能性が大有りなのだからな」

「だろ?ったく・・・、だから俺はヤダって言ったのに・・・」

「ちょっと」

「は?」

背後からした声にシカマルが振り向くと、顔を引きつらせたサクラの顔が間近にあり、思わずシカマルが身を引いた。
「私のことを無視するのやめてくれる?」

こめかみの血管をピクピクさせたサクラにシカマルは冷や汗を垂らす。

「なんか色々と問題発言が聞こえたんだけどぉ?」

「いや、それは・・・」

ダラダラと冷や汗を流すシカマルに、ずいと顔を近づけた後サクラはふうと息を吐いた。

「まあ今は許してあげる。でもちゃんと説明するのよ?私たちも巻き込まれたんだから。
顔も見られたことだし?何か危険なことにならないとは限らないし」

サクラの言葉にシカマルは深く溜息を吐いた。

「わーったよ。すればいいんだろ、すれば・・・」

女ってヤツは、とシカマルは呆れる。何か問題が起きると途端に男よりも強くなる。
シカマルは今までの人生で女に逆らえたためしがない。
それは母、いの、そしてサクラと女性の中でも選りすぐりに強い人々と当たったからなのだろうが。
周りに集っていた生徒たちも徐々に散らばり始めたころ遠くから声が聞こえた。

「「シカマルー」」

皆は両方向をきょろきょろと見た。


「来るのがおせえんだよ・・・」


シカマルは一人ぼやいた。

職員室からヒラヒラと手を振りながら歩いてくるカカシと、慌てて車を止め形相を変えて走ってくるアスマだった。




だってシカマルならアレぐらい大丈夫だと思って、と笑いながら言ったカカシを皆で袋叩きにした後。
アスマが乗ってきたワゴンに九人がすし詰めになって―普通なら余裕だろうが、ガタイがいい男が多すぎる―乗り込んだ。
せまい、暑いと文句を言いながら付いた先―

「あれ?俺んちだってばよ??」

わけが分からん、と首を傾げるナルトの後ろから続々とメンバーが飛び降り、肩で息をする。
周りのマンションとは一線を画する高級マンション。
ワンフロアが一室になっており、かなり広い。セキュリティーも万全で、入り口にはガードマン・・・
サスケが不思議そうに言う。

「久し振りに来たけど、おまえんちってこんなに警備厳重だったか?」

「えぇ?!だれだってばよ・・・」

ナルトが眼をぱちくりさせるのを見て、シカマルは頭を抱え

「スマン。あれ、俺の部下・・・」

「「「「「「「「はぁ??!!!」」」」」」」」

「ま、とりあえず入れやお前ら」

にやにやと笑いながらアスマは言葉を失ったままの子供たちの背をおした。
呆然としたままあるきだした皆を後ろからアスマとシカマルは追っていく。
マンションの入り口でシカマルは立ち止まる。

「ライドウ・・・」

「ハイ?・・・うっ」

見事にシカマルの拳は鳩尾にヒットし、ライドウ、と呼ばれた怪しいガードマンは腹を抱えて崩れ落ちた。
シカマルが何事もなかったように立ち去った後、アスマは呆れながら

「あーあ。そんな所に立ってたら目立って仕方がねえだろ?ライドウ。おめえが悪いんだぞ?」

唯でさえ日本じゃ目立って仕方がねえ顔の癖に、とそういい残し、自らもエレベーターで階上へとのぼっていった。
エレベーターは四階で止まり、その階で一つしかない部屋のインターホンをナルトが押す。
その瞬間―

「お帰りナルト☆」

「た、タダイマ・・・だってば」

「「「「「「「「おじゃま、します・・・」」」」」」」」

キラキラ、と音がしそうなくらいの笑顔で出迎えたナルトの父・注連縄に一同土盛りながらも返事を返す。
注連縄がナルトを溺愛しているのは皆知っているのでそれはいいのだが、皆の視線は注連縄の背後に注がれる。
早くあがって、という注連縄の後ろ―リビングには目つきの悪い日本人離れした顔が並ぶ。
品定めをするような目つきに皆居心地の悪さを感じ始めたとき、男たちは何かを見つけたらしく表情を和らげた。

「おかえり、シカマル」

その言葉に皆は振り返る。

「タダイマ。てか、お前ら人相悪すぎ」

お前に言われたくねえよ、という声が飛ぶ中注連縄が声をかける。

「お帰り〜、シカマル君。お疲れだったね」

「イエ、仕事ですので」

しれ、とシカマルは返すとさっさと靴を脱ぎリビングへと向かった。

「さっさと上がってこいよ。説明しねえぞ」

その言葉に皆慌てて靴を脱ぎ捨てる。
広い玄関も靴で埋め尽くされ、リビングもやや手狭に感じる。
ベランダ側にあるソファにシカマルとアスマが座り、その後ろに男たちが立つ。
その様はかなりの威圧感がある。
何しろおとこたちは傷だらけでとてもじゃないが普通には見えない。
シカマルたちと向かい合うようにナルトと注連縄が座り、各々落ち着くところ―いのは若干後ろに怯えながらもシカマルの隣にチョウジは床に。他はナルトの後ろに立っている―に腰を下ろした。
それを見計らったようにお茶が出される。

「どうぞ」

「お、サンキュ・・・、っ」

お茶を受け取ったキバは口を開けたまま固まった。
ナルトはニッコリと微笑まれ真っ赤に染まる。

「ありがと、白。お前ら、言っとくけど。白は男だぞ」

シカマルの言葉に白の顔を凝視したまま、えっ、と皆言葉を失う。
その様子にクスクスと笑いながらお茶を配り終えると、白もまたシカマルの後ろに控えた。
皆の動きが止まったのを見て、シカマルが話し始めた。

「ホントはあんまり話したくないんだけど、巻き込んじまったことだし話しとく。特にナルト、お前は部外者じゃないからな」

「へ?俺?」

「そう。発端は注連縄博士の作ったソフトだ。今回はそれを死守するのが任務。
ナルトが博士の息子だって事は公にされているし。
博士は俺らが守ってるし、敵さんとしちゃあ、お前を狙ったほうが手っ取り早い。
というわけで、ナルトは暫く外出禁止な」

「え〜っ?!そんあぁ」

ナルトは抗議の声を上げる。しかしキッパリとシカマルに

「命が惜しかった出るな」

「ごめんねぇ、ナルト」

申し訳なさそうに隣のナルトに注連縄は笑いかける。いいってばよ、と泣きながらナルトは肩を落とす。
じっと聞いていたサクラが声を上げた。

「ていうか、あんたは何やってんのよシカマル。任務って?部下って?何に首突っ込んでるわけ?」

「・・・」

「目を逸らしたって無駄よ。ちゃんと説明してもらうまで帰らないんだから」

「観念して言ったほうがいいと思うぞ。だれもこうなったサクラを止められないというのはシカマルもよくわかっているのだろう」

シノの言葉に深くため息を付き、仕方ねえなあ、と顔を上げた。

「俺の親父が何の仕事してるか知ってるか?」

「さぁ。ヤクザ?成金?それとも・・・」

サ、サクラちゃん、とか細い声で止めるヒナタを無視してサクラは言う。

「なんでそっち系なんだよ・・・」

「そういえばぁ、ここ最近おじ様見てないようなぁ・・・。ねぇ、チョウジ?」

「そうだねえ。前に会ったのって確か二年前ぐらいかもね」

「おじ様って、外国で戦争してるとかなんとか昔冗談で言ってたような・・・」

いのの言葉にシノがピクリと反応する。

「傭兵か」

「正解。傭兵っていうのは、金で雇われて兵士として戦ったりもするが、まあ、大体において便利屋だな。
警察や軍が役に立たなかったり動けなかったりすると、傭兵部隊にお鉢が回ってくる。
傭兵ってのは国籍が関係ないから、割合自由に動けるんだ。
そういうことをして金を稼いでる、まあ荒くれ者?」

ひでえ言われよう、とアスマは呟く。それを聞いていた白は後ろでクスクスと笑った。

「それが今日のこととどう関係するんだよ」

わけが分からない、結論を言え、とキバは迫る。ソファの背にもたれたキバの後ろに立つサスケも同じ意見のようだ。

「その親父に今回の注連縄博士とソフトの護衛任務が入った。が、生憎別の任務中で手が回らない。
というわけで、こっちに任務が回ってきたわけ」

お分かり?とシカマルは皆を見渡す。

「でも、おじ様の息子ってだけでシカマルがそんな大変なこと受けちゃっていいの?」

隣に座っていたいのがシカマルに問う。皆、そうだよね、というように頷く。子供たちの様子をにやにやと大人たちは見ている。

「それはだなぁ・・・」

「皆さん、傭兵がライセンス制だというのは知っていますか?」

にこやかに話し始めたのはシカマルの後ろに立っていた白だ。シカマルと目を合わせた白は微笑み、そして言葉を続ける。

「傭兵として働いていくためには資格を取る必要があるんです。傭兵として働くものは先ず、自分の師となる人を探します。
そしてその人の下で経験と実績を積み、ライセンスを取ります。ライセンスを取らなければ任務には就けません」

白の言葉にナルトとキバはへぇ、と某番組のように手をバンバン叩いている。
そのほかのメンバーは白の言おうとしていることに気が付いたようだ。
サスケが言う。

「ということは・・・」

白が微笑う。

「そういうことです。シカマルくんはライセンスを持っているんですよ」

食って掛かっていたサクラももはや次元の違う話についていけず唖然としている。
サスケもヒナタも同様だ。
ナルトとキバは話そのものについていけていないようだが。
いのは、どういうことなのよっ、とシカマルに掴みかかりチョウジになだめられている。
シノがシカマルに

「シカマルお前、自ら普通の生活から遠ざかっているな」

「ほっとけ。好きでこうなったわけじゃねえ。ライセンスは昔親父に取らされたんだ」

はっと我に返ったサクラが問う。

「そういえば、ライセンスってランクがあるって聞いた事あるんだけど。シカマル、あんたランクは?」

何で知ってるんだ、とシカマルは詰まる。物知りですね、と白は感心し、そして一言。

「シカマルくんのランクはA級ですよ」

「どういうことだってば、白さん?」

答えを聞くまでもなく分かってしまった面々は顔を引きつらせる。A級、それは―

「白でいいですよ、ナルトくん。A級はですねえ、傭兵を束ねる指揮官なんです」

「「えぇえっ?!!このシカマルが?!!」」

ナルトとキバは同時に大声を出して立ち上がり、シカマルに向かい指を刺す。
私はヤだわ、と呟くサクラに俺もだ、とサスケが同意を示す。
皆の様子を見ていた白が、信用ないですね、とシカマルに話しかけた。
それを見たいのが白に質問する。

「まさか白さんも傭兵なんですか?そんなに可愛いのに」

「そうですよ?ここにいる人たちはみんなシカマルくんのチームの傭兵です。僕やアスマさんは古株ですけど、ゲンマさんやイビキさんや外にいたライドウさんは元々シカクさんのチームなんです。今回は人手が足りないんで」

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

「はい?」

皆の一斉の問い返しに白は返事する。

白の発言にアスマは頭を抱えた。隣のシカマルはざまあみろ、というふうに哂っている。

「いま、アスマ先生が傭兵って聞こえたんですけど・・・」

ダラダラと汗を流しながら、キバが問う。

「その通りですけど。僕、何か間違った事言いましたか?」

首を傾げる白に一同肩を落とす。肝心なところで抜けている白に思わずアスマは呟く。

「お前・・・」

「はい?」

僕の日本語間違ってました?と的外れな心配をしている白にもういい、とアスマは返した。
その時、玄関が突然開いた。
イビキやゲンマ、アスマ、白、そしてシカマルが一瞬緊張の色を見せたが人物を確認した途端ため息を付いた。
位置的に玄関が見えないためにだれが入ってきたのか分からない子供たちは疑問を浮かべていたが、それも直ぐに解決した。

「やっほー!家に帰ったらみんな居なかったからさあ?こっちにいると思って来ちゃったー。
いやー、今日は大変だったよねー、シカマルー!」

玄関から響く声は正しく中学校からの担任の声。畑カカシその人だ。つい先程あった―袋叩きにしたところだ。

「うるさい!!早く入って来いバカカシっ!!」

なんか今日靴が多くないー?と不思議がりながら上がってきたカカシは目を見開いた。

「あれまー。皆さんおそろいで・・・」

まさか全員が居るとは思っていなかったカカシは、全員分は無いよ?とお土産のプリンを掲げた。




















アトガキ>
2005・09・11

一応続く、としておこうと思います。問題解決してないし・・・。
いかがでしたでしょうか。学園パラレル+αでシカマルが傭兵です。
しかもなんかメンバーいろいろ出て来すぎ。
そしてサクラとカカシと白が出張りすぎっ!!
だって、白とかカカシとか勝手にしゃべり出すんだもん
おまえらがしゃべりだすと収拾つかねえんだよーっ!!
ゼーハー

傭兵ってイイよね・・・ウゲゲ
ライセンスとかあのへんは適当に聞き流してください。
多分嘘っぱち・・・。

評判がよければ続くかもしれません。
感想ナゾありましたら拍手で書き込んでやってくださいませ>_<
あなたの一票が、作者の心の支えです!!
どうか清き一票を!!(違う)

管理人・コウ

無断転写禁止です。著作権は放棄していません。ご注意。



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送