『一緒に来るか?』
まるで子猫を呼び寄せるような、柔らかい声だった。















雨が止まない。
任務から帰ってきた身体は、とうの昔に雨により冷やされていた。
張り付く服が気持ちが悪い。
額に張り付いた髪を手でかき上げながら、森の中を走り抜けた。
日が昇る時間帯だが、既に雲の中に隠れている太陽は顔を出してくれそうにも無い。
あたりは薄暗いままだ。
森を抜け、里の門を潜る。
寝ずの番についていた警備の忍の気配がチラチラとこちらを見るのが分った。
里の中に入り、走る速度を緩めた。
此処までくれば、危険も無い。
それに、先ほどから・・・
「ックシっ・・・ぅ、さびぃ・・・」
ゾクゾクと全身を走るのは悪寒だろうか。
そうなる要素に心当たりがありすぎて絞り込めない。
段々とボーっとしていた意識のまま、木を、地を、屋根を蹴った。
木から民家の屋根に飛び移ろうとしたときだった。
民家と民家の間の路地に、人の気配がした。
気薄な、人の気配。
自分と似た、寂しい気配。
『死にたい』
雨音のなか、その言葉だけが鮮明に耳に届いた。
その瞬間、ガシャン、と足元の瓦が鳴った。
「・・・っ」






雨が降る中、家に帰ることも無く。
里人に殴られ、蹴られ、そのたびに血を吐いた、その状態のまま座り込んでいた。
動く気力も無く、傷口から溢れた血が雨に流される様子をずっと見ていた。
だがもうその傷跡も、どこにもない。
幾ら傷ついても、直ぐにふさがるこの身を、皆は化け物と呼ぶ。
まだ物の分らぬ頃は只管抵抗していたものが、もう今は唯受け入れるのみ。
抵抗しても、しなくても、受けるものは同じだ。
こちらが大人しくしていれば、敵はそのうち飽くだろう。
そう、思った。
「こっちが抵抗しないと思って、好き勝手しやがって・・・」
しゃがれた声しか出なかった。
身体に傷が残らずとも、確実に心に傷が残っていた。
声を出すのも億劫なほどに。
もう、死んでしまおうか。そう何度思ったことだろう。
必要とされない辛さは何にも勝る。
存在否定だ。否定された存在なら、いっそ死んでしまったほうがいい。
きっと、今までに感じたことの無い、安心感を得られるんだろう。
「死にたい・・・なぁ・・・」
ナルトは呟いた。
そのとき、
ガシャン、と頭上で音がした。
上を見上げたときだった。
ガラガラと瓦が音を立てて数枚落ちてきた。
その時点では避けようとは露にも思っていなかったが
ふっと現れた影に思わず身を翻した。
「っ!!」
そのまま落ちるかと思われたそれは、体勢を持ち直したらしく、音も無く地面に着地した。
びっしょりと濡れた姿だったが、それでも整った顔をしたその人からナルトは眼を離せなかった。
自分に何の敵意も無く、突然現れたその人が酷く神聖に見えた。







一瞬意識が遠のいた。
気が付いたら屋根の際。落ちると同時に身体を捻りながら、着地する体勢を作った。
指折りの暗部が、屋根から落下して死ぬなんて、そんな間抜けなことは出来ない。
真下に居た子供が避けてくれたことを感謝しながら、地面へと降り立った。
グラグラと揺れる世界のなかで、一際輝くその光を、見逃すことは出来なかった。
黙って此方を見つめている子供を、見ずには居れなかった。
「・・・」
「・・・」
「あの・・・、大丈夫だってば・・・?」
びっしょりと濡れた、少し汚れた服を着た子供が問う。
「・・・、ああ」
そっちこそ、こんな早朝にこんなところに居て大丈夫なのか。そう思ったが、先ほどの言葉が、心に引っかかった。
この里で、金髪に碧眼。暗部しか居ない時間帯に一人で座り込んでいるような子供は、一人しか居ない。
「お前、死にたいのか?・・・そう、聞こえたけど」
そういうと、子供は少し目を見開いた。そして、聞いていたのか、と呟いた。
「独り言だから・・・。ただ、死んだら、俺の価値も少しあるのかなって・・・、思っただけ・・・」
消え入りそうになるその澄んだ声を、じっと聞いた。
「存在価値なんて、誰かに決めてもらうものじゃないだろう?」
喋るだけで、息が弾んだ。自分でも、吐息の熱さがわかった。
「ぇ・・・?」
蒼い目が揺れ動く。
「もし、存在理由がほしいなら・・・」


「一緒に来るか?」

























「あーあー、また雨降ってるー・・・。止まないってばねぇ・・・」
寝室の窓からナルトは外を見つめた。
窓に映る自らの奥に、シトシトと落ちてくる雨粒が見える。
ぐずついた天気が続いていたが、今日も朝から雨のようだ。
ナルトは窓の外からベッドへと目線を移した。
深く被った布団から、黒い髪が覗いている。
丸まって大人しくしているその人物に、ナルトはため息をついた。
「なんでシカは、そう毎回毎回風邪引くんだってば?そんなんだったら、雨の日の任務は全部断るってばよ」
ナルトの苦言に、シカマルは埋もれていた顔を布団から出した。
「それで里が成り立てば、俺はいいんだけどよ・・・。むしろしたくないし・・・。でも業務が滞るのは困る・・・」
荒い呼吸に、ナルトは右手をシカマルの額に宛がった。
「なに?」
「んー、熱上がってるてばよ?熱さまし、飲む?」
「いや、効かないからいい。それより・・・」
「それより?」
ナルトは首を傾げる。
「一緒に寝よ」
普段は無いその可愛いおねだりに、ナルトはぷっと笑った。
「一人じゃ寒いからな・・・。それに・・・」
「それに?」
「それに、ナルトが起きてたら俺が寝れないから」
うるさくて、そういって、再び布団を被ってしまったシカマルに、ナルトは苦笑した。
任務から帰ってきたシカマルをベッドに押し込んだところまでは良かったのだが。
色々と世話を焼いているうちに眼がさえてしまったため、一人で喋り捲っていた。
病人を寝かすどころか、邪魔をしていたことに、そしてそれに何も言わずに付き合ってくれていたシカマルに。
様々な矛盾が、また愛しい。
「仕方ないから一緒に寝てあげるってばよ」
そういって、ナルトは布団にもぐりこむと、自分より体温の高いシカマルを抱き寄せた。
以前にもこんなことが、あったではないか。そんなことを思い出して、ふっと笑った。
「そういえば、シカマル、初めてあったときも、こんなことがあったってばね?」
「そうか・・・?」
「ヤッパリ雨が降ってる夜でさ、シカが空から降ってきた」
シカマルの返事はないが、ナルトは話し続ける。
「シカが一緒に来るか、って言ってくれたから。存在理由をくれるって言ったから。だから俺は一緒に行ったけど。
でもホントはそんなの関係なくってさ。唯、初めてみた瞬間から、シカに触れたくて仕方が無かっただけで。
二人でさ、動けないからくっ付いて座り込んでた。そんだけでも、俺は嬉しかったんだってばよ?」

今の俺の存在理由は、きっとシカマルを看病するためだってばね。
はじめてあった時から...
そんな、自分で見つけた存在理由にナルトは笑った。
ちっぽけな幸せは、あの時一番欲したものだった。





一緒に来るか、って。
たったそれだけの言葉で、俺は救われたんだってばよ?
分ってる?シカマル

腕の中で眠るその人に、心の中で問いかけた。




















▽書いた本人もいまいち流れがつかめてないので。
意味不明なところはスルーで(汗)
私の中で、シカマルはスレてても結構素直な子みたいです。
お互いに依存してる、みたいなのが好きだ。










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